FMK! FMK!

小説版FMK

やっべ、なんか書くの楽しくなってきた。
今回はKanon冒頭のパロでお送りさせていただきます。

翌日。
駅前にて。


「……寒い、遅い、凍え死ぬ」


前髪の鬱陶しい青年が、頭に雪を積もらせてベンチに座っていた。

彼の名は相沢祐一。
親の転勤の都合で海外で暮らすはずだったのだが、日本での生活を望んでいた彼は従兄妹の水瀬家へ居候をすることになったのだ。
そして今、ここで落ち合うはずの従兄妹の少女を待っているのだが……。


「……二時間オーバー…コナン君が四回見れるぞ、コンチクショウ」


溜息をつきながら、彼は携帯電話の時計を見た。
間の悪いことに、雪も少々激しくなってきた。


 ああ、俺はこのまま路傍に凍死してしまうのか。
 死ぬ前にもう一度、吉野家で特盛りのつゆだくを食ってみたかった。豚丼なんて邪道だよ、邪道。
 ていうか、街中で凍死なんてカッコ悪すぎじゃないか、コノヤロウ。こんなところで死んでたまるか。
 天よ地よ火よ水よ、我に生きる力を与えたまえ。


そんなどうでもいいことを考えながら、彼は天を仰いだ。


その時。



彼の視界を何かがよぎった。


「…………」


女の子だった。

長い髪に眠そうな目。
いかにもマイペースそうなその姿は、見る者に脱力感を与えていた。










「顎、尖ってるよ」


「頭、かち割られたいのか?」


一番気にしていることをぬけぬけと言われた祐一は少々ご立腹。
しかし少女は、そんなことには気付かず会話を進める。


「う〜ん……昔は、もっと丸っこかったよね…」


この一言で祐一の堪忍袋の尾は切れた。メインシステム、戦闘モード起動します。


「脳漿ぶちまけて絶命しろ」


祐一は少女の顔を、両手でがっしりホールドし――










情け容赦なく脳天に頭突きを喰らわせた。










「痛い……」


少女は目を潤ませ、心底痛そうに頭を押さえた。


「俺の繊細なハートに一生もんの傷を残したんだ。頭突き一発で済んだだけ、ありがたいと思え」


「極悪だよ……女の子には優しくしなきゃいけないんだよ…」


「人を二時間待たせた上、いきなり『顎、尖ってるよ』なんて言う奴のほうが余程極悪だと思うんだがな」


「え……?」


少女は不思議そうな顔で祐一の顔を眺める。


「……今、何時?」


「一五○三時だ」


「普通に言って」


「……三時三分だ」


「わ、びっくり」


言葉とは裏腹に、まったく驚いた様子は無い。
まあそんなマイペースなところが、彼女の持ち味なのだろうが。


「まだ二時くらいだと思ってたよ」


「どっちにしろ一時間の遅刻だ。……で、なんで遅れたんだ?」


「そ、それは……」


少女はどもりながら言葉を続けた。


「べ、べつに迎えに来る途中で小腹が空いて百花屋に寄って、その後途中で可愛い猫さんを見つけて見とれていたら、こんな時間になってたわけじゃないよぉ〜」


「墓穴掘ってる墓穴掘ってる」


ここまで来ると、確信犯か? と疑ってしまいたくなるような天然っぷりである。
話の雲行きが怪しくなってきたところで、少女が突然缶ジュースを差し出した。


「これっ……遅刻したお詫びと、再会のお祝い」


祐一は差し出された赤い缶を受け取り、商品名の確認をした。
その特徴的な色遣いから、最初はコカ・コーラかと思ったのだがどうやら違うらしい。










商品名「ドクターペッパー」





「飲めるかっ!!」


「う〜……美味しいのに」


「つーか七年ぶりの再会にドクターペッパー持って来る、お前の感性が理解できん」


「お葬式にあんまん持ってくる子よりマシだよ〜」


「……誰?」


「秘密」


「そう言われると余計に気になるんだが……。それにしても、もう七年か……」


そう、七年。
彼がこの町にやってきたのは、今回が初めてではなかった。
七年前の丁度今頃、祐一は従兄妹のところへ遊びに来ていたのだ。
もしかしたらそれ以前にも何度か遊びに来ていたのかもしれないが……如何せん昔のことなので、思い出すことが出来ない。


「ねぇ、わたしの名前、まだ憶えてる?」


感慨に耽っていると、従兄妹の少女がそんなことを訊いてきた。


「当然だ。そういうお前だって、俺の名前憶えてるか?」


「うん」





雪の中で……。


雪に彩られた街の中で……。


7年間の歳月、一息で埋めるように……。






「名雪」


「ネ左一」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「……"ミズセ"?」


「読み方違うよ〜。ミズセじゃなくてミナセだよ、ミナセ」


「よかった……俺はてっきり、これからデッドオアアライブな毎日を送らなきゃならんのかと……」


「なんのこと?」


「いや、気にしないでくれ。……そろそろ行くか」


「あ……うんっ!」





7年ぶりの街で


7年ぶりの雪に囲まれて


新しい生活が


冬の雪にさらされて


ゆっくりと流れて行く。




















「…………で」


不服そうに祐一は言った。


「なんで商店街なんだ? 家に直行じゃないのか?」


「お母さんに買い物頼まれてたんだよ〜」


大して悪気も無く名雪は言った。
祐一としては、早いところ家に行って冷えた体を温めたかったので不平たらたらだ。


「一度家に帰ってからでもいいんじゃないか? つーかお前が悪い。迎えに来る前に買い物済ませなかったお前が悪い」


「ぅ〜……文句があるなら、今日は紅しょうがだよ?」


その言葉を聞いた瞬間、祐一の体がわずかに強張った。


「紅しょうがの絞り汁に、紅しょうがのお味噌汁。紅しょうがの上に紅しょうが乗せて食べるんだよ〜」


「ごめんなさい。俺が悪かったです」


これは一種の脅迫ととっても問題ないんじゃないか?
そんな理不尽な感情に苛まれながら、祐一は頭を下げた。


「それじゃぁ、祐一はここで待っててね」


「はいはい」


「絶対、待っててよ?」


そう念を押して、名雪は商店街の奥へと消えて行った。





「……さて」


祐一は腕を組んで考えた。
まいった。手持ち無沙汰だ。
ここで待つように言われた以上、この場を離れるわけにはいかない。
もし万一、名雪が帰ってきたときに祐一がいなければ……。

今夜、彼の眼前に紅しょうがのフルコースが並ぶことは必死だろう。


 どうしたものか……


そう思っている祐一の肩に、何かがぶつかった。


「どわっ! な、なんだ?」


「む……失敬。余所見をしていた」


こんなところ。
一番最後の台詞は、もちろん奴です。

SRC

とりあえず10KBまで。
そろそろネタが尽きてまいりました。

……ガンガレ、俺